top of page

遺言に書けなかったこと|相続と猫、実家に残された時間の話

これは、相続と住まい、家族と猫についての物語です。

​

母から電話があったのは、夕方の光が少しだけ金色に変わりはじめた頃でした。

​

「辻堂のおじさん、亡くなったのよ」

​

​

その声は、驚くほど静かでした。

しばらく会っていなかった叔父。
子どもの頃、お年玉をくれた手の温度。
庭で猫を抱いていた姿。
あの日、その猫が初めて“猫の可愛らしさ”を教えてくれたこと。

そんな断片だけが、ふっと胸の奥に浮かびました。

​

四十九日が過ぎた頃、親族で集まる機会がありました。

叔父は、離婚してからずっと一人暮らしでした。
離婚するまでは、従妹と会うのも年始の恒例行事だったのに、いつの間にか距離ができていました。

​

残されたのは、古い家と、一匹の猫。

以前遊んだ猫とは違うけれど、どことなく似ている。
「まだ、猫を飼っていたんだ」
そんな小さな驚きが胸に灯りました。

その二つだけが、叔父の暮らしの最後を静かに物語っていました。

机の引き出しには、叔父の字で書かれた紙がありました。

​

家のこと。
 

預金のこと。
 

そして、誰に託したいか。

文字は整っていました。

 

けれど、その紙だけでは分からないものもあるような気がしました。

読み終えたあとも、胸の奥には小さなざらつきが残りました。

なぜ叔父は、この家を残したかったのだろう。

売ることもできたはずです。
もっと身軽に暮らすこともできたはずです。

それでも叔父は、最後までこの家で暮らし続けました。

​

家の片付けをしていると、古いアルバムが出てきました。

若い頃の叔父。
庭木を手入れする姿。
縁側で猫を撫でている姿。

ページをめくるたび、写真の中の叔父はどれも穏やかで、まるでその家の空気そのもののようでした。

その写真を見ていると、ふと気づきました。

叔父が残したかったのは、家そのものではなかったのかもしれない。

家は財産です。
相続の対象です。
維持にもお金がかかります。

でも叔父にとっての家は、それだけではなかったのでしょう。

そこには、毎日の暮らしがありました。
季節ごとに眺めた庭がありました。
猫と過ごした静かな夕方がありました。

積み重ねた時間そのものが、家の中に息づいていたのだと思います。

猫もそうでした。

叔父が可愛がっていた猫。
膝の上で眠る写真。
動物病院の診察券。
猫の爪痕があるキャットタワー。

どれも、言葉にならない思いをそっと抱えていました。

​

相続を考える場面では、家や預金よりも、「猫をどうするか」という問いのほうが重くなることがあります。

​

私は考えました。

叔父は猫をどうしたかったのだろう。

守りたかったのか。
最後まで一緒にいたかったのか。
それとも、自分が先にいなくなることを、どこかで受け入れきれなかったのか。

遺言には書かれていません。

でも、残された物たちが、少しずつ語りはじめます。

​

相続というと、多くの人は財産の話を思い浮かべます。

家をどうするか。
預金をどう分けるか。
土地をどう扱うか。

もちろん大切なことです。

でも、人は人生の終わりに、本当に“物”だけを残したいのでしょうか。

 

感謝を残したい人もいる。
謝れなかった気持ちを残したい人もいる。
猫への心配を残したい人もいる。
家族が迷わないようにしたい人もいる。

そして、自分が大切にしてきた時間を、誰かにそっと手渡したい人もいる。

 

きっと相談には、人は整理できた気持ちだけを持ってくるわけではありません。

 

忘れたい。
忘れたくない。
手放したい。
まだ持っていたい。
任せたい。
自分で守りたい。

 

そんな相反する気持ちが、ひとつの心の中に同時に存在しています。

​

だから私は、
「何を残しますか?」よりも、こう尋ねてみたいと思うのです。

「誰に安心していてほしいですか」

 

そして、

「本当に渡したかったものは何だったのでしょう」

 

その答えの中には、家があるかもしれません。
 

猫がその安心を一番知っているかもしれません。


家族かもしれません。

​

そして、まだ言葉になっていない願いが、そっと隠れているのかもしれません。

​

家を残したいのではなく、安心を残したい。

お金を残したいのではなく、迷いを減らしたい。

猫を残したいのではなく、猫の望む暮らしを最後まで守りたい。

​

そんな思いを整理する時間もまた、人生の大切な一部なのだと思います。

 

解決を急がなくていい。

まずは、自分が何を未来へ渡したいのか。

ゆっくり眺めてみるところから、始めてもいいのかもしれません。

 

そして、この話は、決して私だけの話ではありません。

今、隣で眠っている猫のことかもしれません。
疎遠になっている実家のことかもしれません。
しばらく会っていない子供のことかもしれません。

あるいは、まだ言葉になっていない、自分自身のことかもしれません。

​

遺言書には書けなかった願いも、まだ言葉になっていないだけで、もうあなたの中にあるのかもしれません。

 

次に読む・相談する

テーマ別の記事一覧へ →

相談メニュー・料金を確認する →

今の状況を相談する →


この記事を読んで、「自分の場合はどう考えればいいのだろう」と感じた方へ。
猫のこと、家のこと、相続や手続きのことは、ひとつだけを切り離して考えるのが難しい場合があります。
まだ何も決まっていなくても、家族に話せていなくても大丈夫です。
まずは60分、今の状況を一緒に整理してみませんか。

​

相談を「すぐ結論を出す案件」ではなく、人・家・猫の関係が少しずつ整っていくプロセスを大事にします。      (売却・引越し・相続を急がせることはありません)

運営:さすけ行政書士事務所  
代表:藤野 健一
神奈川県行政書士会所属 登録番号26092005
事務所所在地:神奈川県綾瀬市
​

(※24時間受付のお問い合わせフォームへ進みます。完全予約制で、一人ひとり丁寧にお話を伺います)

​

bottom of page